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東京地方裁判所 平成元年(ワ)4342号 判決

原告兼反訴被告(以下「原告」という。) エスティティ物産株式会社

右代表者代表取締役 中澤勤

右訴訟代理人弁護士 野邊寛太郎

被告 角谷輝男

被告兼反訴原告(以下「被告」という。) 株式会社 志る角

右代表者代表取締役 角谷輝男

右両名訴訟代理人弁護士 中野公夫

同 藤本健子

主文

一  原告の主位的請求を棄却する。

二  被告らは、原告に対し、被告角谷輝男が原告から金一億五〇〇〇万円の支払いを受けるのと引換えに、別紙物件目録記載の建物を明け渡せ。

三  被告角谷輝男は、原告に対し、平成元年一一月一一日から右明渡済みまで一か月金一七万円の割合による金員を支払え。

四  原告のその余の予備的請求及び被告株式会社志る角の反訴請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、本訴反訴を通じ、これを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

六  この判決は、第二及び第三項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  本訴請求の趣旨

1  被告らは、原告に対し、

(一) (主位的請求)

別紙物件目録記載の建物を明渡せ。

(二) (予備的請求)

被告角谷輝男が原告から金一億五〇〇〇万円又は裁判所の相当とする金額の支払いを受けるのと引換えに別紙物件目録記載の建物を明渡せ。

2  被告角谷輝男は、原告に対し、昭和六三年一〇月一四日から右明渡済みまで一か月金一七万円の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告らの負担とする。

4  仮執行宣言

二  本訴請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

三  反訴請求の趣旨

1  原告は、被告株式会社志る角に対し、金一二二七万三三一八円及びこれに対する平成元年九月一四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  仮執行宣言

四  反訴請求の趣旨に対する答弁

1  被告株式会社志る角の請求を棄却する。

2  訴訟費用は被告株式会社志る角の負担とする。

第二当事者の主張

一  本訴請求原因

1  原告は、別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)を所有している。

2  原告は、被告角谷輝男(以下「被告角谷」という。)に対し、昭和六二年三月二七日より、期限の定めなく、賃料一か月一七万円で本件建物を賃貸した。

3  被告株式会社志る角(以下「被告会社」という。)は、日本料理店「志る角」を営業することによって本件建物を占有している。

4  原告は、被告角谷に対し、同年四月一三日、書面により右賃貸借契約を同年一〇月一三日限り解約する旨の意思表示をし、右書面は同年四月一三日被告角谷に到達した。

5  右解約申入れには、以下のとおりの正当事由がある。

(一) 本件建物について

本件建物を含む同目録表示の三階建建物(以下「全体建物」という。)は、昭和三二年ころ平屋建として建築され、その後、増改築を重ねた木造建物である。右建物は、建築後三〇年以上経過しており、柱と梁が結合されていなかったり、あるいは枢要な柱が腐敗するなど老朽化が進み、既に朽廃の状態になっている。また、強度あるいは耐力を考慮せず違法な増改築がなされたもので、構造上、本件建物の危険性は高い。

(二) 原告の自己利用の必要性

原告は、都内数十か所において喫茶店カフェラミル等を経営し、従業員数百名を雇用する会社である。しかし、その本社は、関連会社本社に間借りするだけでは足りず、現在では新橋に約六〇坪の貸ビルを借りて執務している状態であり、会社の規模に相応する事務スペースを確保できず、しかも事務の分断により機能的運営ができないでいる。また、金融機関の信用を得るためにも自社ビルを持つことは重要なことで、本件建物の敷地を利用して本社ビルを建築する原告の必要性は高く、本件建物の明渡しを求める必要がある。

(三) 地域振興の必要

本件建物の存在する六本木地区は、近時、急速に商業化し、土地の高度利用が進行しているが、全体建物のみがその近代化から取り残されている。全体建物のうち、利用されているのは本件建物の部分だけで、残余の一階の一部並びに二階及び三階の部分は空屋となっており、本件建物を含む全体建物の建替えは、地域振興・再開発の上からも急務である。

(四) 被告らの事情

被告会社の営業する日本料理店「志る角」の客筋は、通りすがりの一見の客ではなく予約客等である。被告会社は代替建物によって営業することは容易であり、被告らが本件建物に固執する理由はない。

6  原告は、被告らに対し、右正当事由の補完として、平成元年五月一〇日の第三回口頭弁論期日において、予備的に、五〇〇〇万円又は相当な金額の立退料を提供する用意がある旨を申し出ており、その後右金額を一億五〇〇〇万円又は裁判所の相当とする額に増額している。

7  よって、原告は、被告らに対し、本件建物について、主位的に無条件の、予備的に被告角谷に対する右金員支払と引換えの明渡しを求めるとともに、被告角谷に対し昭和六三年一〇月一四日から右明渡済みに至るまで賃料相当損害金として一か月一七万円の割合による金員の支払いを求める。

二  本訴請求原因に対する認否

1  本訴請求原因1ないし4の事実は認める。なお、被告会社は、昭和五五年二月、当時の賃貸人の承諾の下に被告角谷が設立して同被告の営業を引き継いだものである。

2  同5については、(一)の事実は否認し、(二)の事実は不知、(三)の事実のうち、六本木地区の高度利用化が進行していることは認め、その余は否認し、(四)の事実のうち、被告会社の営業については認め、その余は否認する。

3  正当事由に関する被告の主張

(一) 被告らの事情

(1) 被告角谷は、昭和四七年ころから六本木地区にある本件建物において「志る角」の屋号で日本料理店の経営を始めた。右「志る角」は、当初は会社組織ではなかったが、昭和五五年二月七日に賃貸人の承諾を得て、被告会社を設立し、その代表取締役となり、被告会社が右「志る角」の営業を引き継いでいる。

被告会社の売上げは、本件店舗の立地条件に負うところが大きく、本件店舗は被告会社の役員及び従業員並びにその家族の生活の基盤であり、何ものにも代えることはできない。被告らにとって、六本木地区において本件建物に代わる物件を探すことは不可能であり、かつ、六本木地区に根をおろした被告らの営業を他の場所において展開することも困難であるという意味において、本件建物は被告らの営業の唯一の店舗で、全く代替性がなく、本件建物の立地条件の良さは全くかけがえのないものである。

(2) 原告は、後記反訴請求原因に述べるとおり、本件建物の取得後、いかにも早急に全体建物が取壊されるかの如く装って、被告らの営業を妨害し、嫌がらせを行った。

(二) その他の事情

本件建物は元々堅牢に出来ており、老朽化しておらず、原告の掲げる各事由は、いずれも原告の利己的な都合を述べているに過ぎない。

(三) したがって、原告の本件解約申入れには正当事由が備わっているとはいえない。

4  同6については、原告主張の金員の給付がなされても、本件解約申入れの正当事由は補完されない。

三  反訴請求原因

1  被告角谷は、昭和四七年ころより、本件建物において「志る角」の屋号で日本料理店の経営を始め、昭和五五年二月七日、被告会社を設立し、同様の経営を行っている。

2(一)  原告は、昭和六二年六月中旬ころ、被告らに対し何の説明もなく、被告らの営業を妨害し、その営業を断念させる目的で、突然全体建物の一部を取り壊し始め、同月二四日、全体建物北側壁面に建設予定地なる旨を表示した横約一・五メートル、縦約一メートルの看板を設置し、同年一〇月二八日、全体建物東側壁面に「カフェ・ラ・ミル本店建設予定地」等と表示した横七・二五メートル、縦二・七メートルの巨大な看板を設置した。昭和六三年三月二五日、原告は、いったん中断していた本件建物に接する建物部分の取壊しを本格的に再開し、右同日ころ、全体建物の公道に面する北側及び東側壁面全体を覆うように白色ビニール製シートを張りめぐらせた。

(二) 原告の右取壊行為により、被告会社の店舗部分と隣接する建物部分との間は板一枚で区切られているだけで、また、全体建物の二階及び三階の窓ガラスは全て取り払われ、ベニヤ板を張りつけた状態になった。これらにより、雨水及びすきま風が入り込むようになり、特に全体建物南側屋上から入り込んでくる雨水は、全体建物の三階、二階の天井を伝わって階下の右店舗に流れ、その壁を汚し、雨の日には水が滴り落ちる勢いであった。

3  被告会社の売上の昭和六二年度の一か月平均が一三八四万九六三六円であったのが、右2(一)及び(二)記載の原告の妨害行為により、昭和六三年四月一日以降同年一二月末までの間のそれが一三一八万三八一四円になり、結局、一か月平均六六万五八二二円の減収になった。即ち、原告の右妨害行為により、被告会社は、昭和六三年四月一日から平成元年九月一三日までの間、合計一二二七万三三一八円の損害を被った。

4  よって、被告会社は、原告に対し、不法行為に基づく損害賠償請求として一二二七万三三一八円及びこれに対する平成元年九月一四日から支払済に至るまで民法所定の年五分の遅延損害金の支払いを求める。

四  反訴請求原因に対する認否

1  反訴請求原因1は不知。

2  同2の事実について

(一) (一)のうち、昭和六二年六月中旬ころに全体建物の一部を取り壊したこと、各看板を設置したこと及び白色シートで全体建物を覆ったことは認め、その余は否認する。右取壊しは、防犯防災上の必要から行ったものであり、シートで覆ったのは、全体建物の荒廃した外観を改善し、かつ、雨風や浮浪者の侵入を防止するためである。

(二) (二)のうち、原告が全体建物の窓ガラスを撤去してベニヤ板を張りつけたこと及び雨漏りがあることは認め、その余は否認する。

3  同3は否認する。

第三証拠《省略》

理由

第一本訴請求について

一  請求原因1ないし4の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで、同5の正当事由の存否について判断する。

右争いのない事実に、《証拠省略》を総合すれば、次のような事実を認めることができる。

1  本件建物について

本件建物を含む全体建物は、東京都内有数の繁華街の一つである六本木地区の中心部に存在し、営団地下鉄日比谷線六本木駅に近く、右全体建物の敷地(東京都港区六本木五丁目一〇九番一、宅地、実測六九・八八平方メートル)は更地として時価一八億九〇〇〇万円程度、すなわち坪当たり八〇〇〇万円以上である。全体建物は、最初は平屋建として建築され、その後増改築を重ねた建物であり、右建物は、建築後三〇年以上経過している。現在、本件建物部分のみ使用されていて、全体建物のその他の部分は空き家状態であり、本件建物の賃料は月一七万円である。

2  原告の自己利用の必要性

原告は、都内数十か所において喫茶店カフェラミル等を経営し、従業員数百名を雇用する会社であるが、その本社は、関連会社本社に間借りしている状態で、新橋に約六〇坪の貸ビルを借りて執務している状態である。優秀な人材を多く確保するということ、銀行等からの信用を得るということ、会社の規模に応じた事務スペースを一か所にまとめて持ち、効率的な事務運営を行うということ等の目的のためにも、六本木地区に本社ビルをもつという必要性が原告にある。本社ビル建築の計画は具体化しており、既に全体建物の隣接の土地建物の買収及び立退きは終了している。

3  地域振興の必要

本件建物の存在する六本木地区は、近年、急速に商業化し、土地の高度利用が進んでおり、特に右地区の中心に近い本件建物の周辺の建物は中高層ビルがほとんどという状態である。その中で本件建物を含む全体建物だけが、その近代化から取り残され、全体建物のうちの本件建物の部分以外は全て空き家となっているため、本件建物を含む全体建物の建て替えの必要性がある。

4  被告らの事情

(一) 被告角谷は、昭和四七年ころ、日本料理店「志る角」を経営するため本件建物を当時の所有者である糸居新吉より店舗使用の目的で借受け、その後数回の更新を重ね、昭和五六年五月二七日、右糸居新吉との間で、賃料一か月一七万円、期間三年で賃貸借契約を締結した。昭和五七年五月一一日、右糸居新吉が死亡し、本件建物は糸居雪松外三名の相続するところとなったが、昭和六一年一〇月一日、右糸居雪松らから渡辺パイプ株式会社へ、さらに、昭和六二年三月二七日、右渡辺パイプから原告へと譲渡され、そのころ、原告は本件建物の賃貸人たる地位を承継した。

(二) 本件建物のある六本木地区は、飲食店の営業には絶好の場所であり、被告角谷及び被告会社は右六本木において一八年間営業を行ってきており、本件建物の立地による営業効果は高く、被告らの側でも、本件建物において右日本料理店の営業を続ける必要性は決して低くはない。

(三) 原告は、昭和六二年六月中旬ころ、本件建物に接する建物部分の取壊しを始め、同月二四日には全体建物の北側壁面に建設予定地なる旨を表示した看板を設置し、昭和六三年三月二五日、中断していた右建物部分の取壊しを再開し、全体建物の北側及び東側壁面全体に白色ビニールシートを張りめぐらせた。

5  正当事由の存否

原告が被告らに本件建物の明渡しを請求する意図は、全体建物の敷地の高度利用・再開発の一環として、本件建物を含む全体建物を取り壊して、右敷地に隣地を加え、その併せた土地上に原告の本社ビルを建築し自ら使用したいということにある。会社の規模に応じた事務スペースを一か所にまとめて持ち、効率的な事務運営を行い、銀行の信用をも得て、六本木地区に本社があるということで多くの優秀な人材を獲得したいという原告の右意図は、企業の判断としては合理的であるというべきである。また、本件建物は少なくとも築後三〇年以上はたっており、原告が主張するような構造上危険な建物であり、かつ、朽廃建物であるとまで認めるに足りる証拠はないものの、本件建物の周辺では商業化・土地の高度利用が進んでおり、本件建物を含む全体建物だけが、その近代化から取り残された老朽建物であること、全体建物のうちの本件建物の部分のみが使用されているだけで、その残部は全て空き家となっている状態であること、全体建物の敷地の坪当たりの時価が八〇〇〇万円以上であるのに比して本件建物の賃料が月一七万円と格段に安いこと等を考えると、現在の建物のままでは、敷地価格に見合う賃料収入を全体建物から獲得することは不可能であり、本件建物の建て替え及び右敷地の高度利用・再開発の社会的な必要性も十分に認められる。

これに対し、被告らの事情について考えると、たしかに、本件建物の明渡しによって、被告角谷及び同人が代表取締役をしている被告会社が一八年間の営業により固定客がつき経営も安定している現在の場所での飲食店業を止めねばならないことは被告らにとって不利益であり、被告会社の従業員及びその家族の生活基盤に重大な影響を与えることも否定できないことを考えると、被告らの本件建物の使用の必要性も十分に認められる。しかし、右被告会社の営業の内容等を考えれば、適当な代替建物を見つけ、そこで営業をすることも決して不可能とはいえず、相当の資金的な裏付けがあれば、本件建物以外の場所に店舗を確保し同所で営業を続けてゆく余地は十分あるものと推認される。

以上の原告被告ら双方の必要性に関する事情に照らすと、原告の自己使用の必要性が被告らのそれを上回るとまでは認められないものの、原告の本件建物明渡請求を不当とするほどの確固たる差があるわけでもなく、また本件建物明渡しによって被告らに生ずる不利益は経済的に補填ができるものということができる。そうであるとすると、当事者双方の必要性、本件建物の存在する地域の環境及び敷地の価格等その他前記認定事実を総合的に考慮すれば、相当額の立退料の申出(賃借人たる被告角谷への支払)により、原告の解約申入れは正当事由が補完され具備されるものというべきである。

6  原告が被告らに対し、平成元年五月一〇日の第三回口頭弁論期日において、五〇〇〇万円又は相当な額の立退料を提供することを条件に解約申入をしたこと、その後、右立退料の金額を一億五〇〇〇万円又は裁判所が相当と認める額に増額する旨申し出ていることは本件記録上明らかであり、弁論の全趣旨に照らせば、右各申出は、先の解約申入の立退料を後に増額した関係にあるというべきである。

ところで、前掲甲第一四号証は、A借家権割合方式及び地域の特性等を総合的に勘案する方法、B対象不動産の正常実質賃料と現行実質賃料との差額を年金還元した価格に営業補償を加算する方法及びC借家人が実損なく現在の借家と同程度のところへ移転していくための費用に着目する方法でそれぞれ算出した金額(A一億五〇〇〇万円、B一億五〇〇万円、C一億二八〇〇万円)のうち、立退きによって生ずる開発利益の一部を借家人に還元するという今日の情勢、特に本件建物の存在する六本木地区ではその立退きによって高い不動産収益が期待されるという事情を総合的に考慮し、最も高いAの価額を採用して、一億五〇〇〇万円を立退料相当額としていることが認められる。そして、右甲第一四号証による評価は、一応相当と認めることができる。

右金額は、現在の賃料の年額二〇四万円の七三・五倍に相当すること、《証拠省略》によれば、被告会社の営業損益は、平成元年度利益一五八九万円、昭和六三年度損失二四六万円、同六二年度利益一一八七万円であり、少なくとも、その営業利益一〇年分位には相当すること、前掲甲第一四号証によれば、右Aの手法による算出額は最有効利用を想定した本件建物部分に帰属する土地価額の四割に相当すること、理論的には賃借人の損失はCの手法によって算出した金額によって補填されるというべきところ、その金額は右一億五〇〇〇万円より低額であることが認められ、これらの事実に、なお前記認定4(三)の事実をも考慮して、当裁判所は、正当事由を補完するものとしての前記立退料の額は、これを一億五〇〇〇万円とすることを相当と判断する。

そうすると、一億五〇〇〇万円の立退料の提供により正当事由は補完されると解されるから、相当の立退料の支払を条件とする解約申入をした平成元年五月一〇日から六か月を経過した同年一一月一〇日をもって本件賃貸借契約は解約されたというべきである。

第二反訴請求について

一  反訴請求原因1の事実は、《証拠省略》により認めることができる。

二  同2(一)の事実のうち、昭和六二年六月中旬ころに本件建物の一部を取り壊したこと、各看板を設置したこと及び白色シートで本件建物を覆ったこと並びに同(二)の事実のうち、原告が本件建物の窓ガラスを撤去してベニヤ板を張りつけたこと及び雨漏りがあることは当事者間に争いがない。

そして、被告会社は、右取壊行為並びに看板及びシート設置行為によって営業収入の減少の損害を受けたと主張するので、この点について判断する。

《証拠省略》によれば、被告会社の売上の昭和六二年度の一か月平均が一三八四万九六三六円であったのが、昭和六三年度のそれが一三一八万三八一四円になったことが認められる。しかし、《証拠省略》によれば、右取壊行為並びに看板及びシート設置行為以前である昭和五九年度の一か月平均の売上は一三五五万二四〇三円、昭和六〇年度の一か月平均の売上は一三〇八万九七二七円、昭和六一年度の一か月平均の売上は一二七六万八七四一円であり、昭和六〇年度及び昭和六一年度の月平均売上がそれぞれ前年度よりも数十万円の減収になっていることを認めることができ、この事実に照らして考えると、被告会社の営業が原告の右取壊行為並びに看板及びシート設置行為によって何らかの悪影響を受けたことは推認に難くないとしても、被告会社主張の右減収がもっぱら原告のこれらの行為に起因するものとは認めることはできず、他にその行為による損害額を認めるに足りる証拠はない。

したがって、被告会社の反訴請求は、その余の判断をするまでもなく理由がない。

第三結論

以上のとおりであるから、原告の本訴請求のうち、主位的請求は理由がないからこれを棄却し、予備的請求は原告が被告角谷に対し一億五〇〇〇万円を支払うのと引換えに本件建物の明渡を求め、かつ、本件賃貸借契約の終了の日の翌日である平成元年一一月一一日から右建物明渡済みまで一か月一七万円の賃料相当損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認め、その余は理由がないからこれを棄却し、被告会社の反訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 稲葉威雄 裁判官 山垣清正 任介辰哉)

〈以下省略〉

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